ニューヨークから他州へ行くバスのターミナルもあるポートオーソリティー駅の向かい側には、いくつもの大きな看板が並んでいる。ふと見上げると、その中の一つに恋人同士風の男女が見つめあっているものがあった。
一見した時、それほど強いインパクトを感じたわけではないのに、なぜかひっかった。古き良きアメリカという雰囲気のレトロなイラストで、2人の会話が漫画チックに入っているのだが、それを読んでひっかかりの理由がわかった。
男性 "Mind if I smoke? (タバコ吸ってもいい?)"
女性 "Care if I die? (私が死んでもいいの?)"
絵面とは裏腹のかなり過激な科白。広告主はニューヨーク州。公の場では吸うなというメッセージを補足説明するコピーもなし。メッセージは単刀直入、シンプル&ストレート。
ビジュアルの穏やかさは、吸う側の罪の意識のなさを象徴的に表しているようにも思える。煙草を吸う時には周囲に気を使いましょうなんていうのは、過去の話。それは、もはやマナーでさえありえない。タッチのノスタルジックさが、それを古い発想であると言っている。
世界一喫煙者に厳しい国アメリカだが、西海岸の方がその風潮は強い。人気テレビシリーズ『Sex and the City』でも、喫煙家である主人公キャリーが西海岸に旅行をした時、みんなから文字通り煙たがられて、ストレスいっぱいになるというエピソードがあった。ニューヨークでは、若者がバーや屋外でタバコを吸うことに関して、世間はいくぶん寛大であったように思う。それが、今は一部では公園(もちろん屋外)でも喫煙禁止になったし、この春には、シガー (葉巻)バー、オーナー以外に従業員がいないバー、規定をクリアする換気設備のあるバー以外は全て禁煙となる模様。そして、このような広告。かなり愛煙家には住みづらい場所となりつつあるようだ。
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