今年1月に創刊された20〜30代のブラック・アメリカンの女性をターゲットにしたファッション雑誌、『Honey』。その9月号、中身は全く一緒だが、2種類の違った表紙で発行された。
年間10回発行の『Honey』の表紙は、毎回ブラックの女性が飾るのだが、カバーガールとなったのは、この号のインタビューでフィーチャーされている人気R&Bグループ、TLCのメンバーであるリサ“レフトアイ”ロペス。彼女、TLCの他のメンバーとの不仲説や解散説があったり、その昔、家に火をつけた交際相手のプロ・フットボール選手と結婚の噂があったり、8月末にはソロ歌手として初のアルバムをリリースしたりと話題に事欠かない。彼女はこの時期、最も注目度が高い黒人女性と言ってもいい。そんな彼女の写真が2つ並ぶのは、かなりなインパクトである。
赤を身に纏った悪女っぽいリサ・ロペスのバージョン "Devilish (悪魔のような)" と、白を身に纏ったセクシーなリサ・ロペスのバージョン "Angelic (天使のような)"。文字の色、フォントの種類や大きさ、記事の見出しのレイアウトには多少の変化が加えられている。
リサ・ロペスのファン、定期購読している『Honey』のファンとしては2冊ゲットしたいという欲求が掻き立てられても不思議ではない。そして、書店で並べて置かれないまでも、1冊手に取ったら、その後ろに違ったデザインの同じ号が目に入るというのは、「!」である。発行側は、これをもって、コレクターズ・エディションとしている。
デザイン的には決まったフォーマットで、ある限定された読者層に向けて毎号発行される雑誌を売るに当たって、記事の内容が読者の心を掴むよう趣向をこらすという正攻法とは別に、こういう変化球もあるのだ。
雑誌というものは、情報を持つメディアであるのと同時に、形態を持つ「モノ」なのだ。物欲、所有欲を刺激して購買に導くというやり方、勿論、ありということだろう。アイデアはシンプルだし、制作的にも凝ったことをしているわけではないが、非常に戦略的である。