4月9日のThe New York Times 紙に掲載された全面広告に度肝を抜かれた。
ニューヨークの現職市長、マイケル・ブルームバーグのポートレートに紙面下部白抜きのスローガン風のコピー、"It's NORML to Smoke Pot.(マリファナを吸うには、NORML/マリファナを吸うのはノーマルなこと)" を掲げ、キャンペーンバッジ風アイコンとその案内、という選挙ポスターをパロった体裁のこの広告、掲載主は1970年に創設されたマリファナを禁止している法律を見直そうという非営利団体、The National Organization for the Reform of Marijuana Laws Foundation、NORML。
50万ドル(=約6500万円)を投じた過去最大規模の Marijuana-Friendly Ad(マリファナにやさしい広告)キャンペーンの一つで、これと同様のポスターが、来月末にかけてニューヨーク市バスのバス停や公衆電話ブースに掲載され、NORML のサイトでは、ブルームバーグ氏写真入りTシャツも販売している。そしてラジオでのCMも流される。
紙面冒頭の "At Last, an Honest Politician.(ついに登場、正直な政治家)" というのは、選挙ポスターの典型的なキャッチコピーをひねっているが、暗にクリントン元大統領が、大学時代、マリファナはふかしたことはあるけど、肺には入れなかったなんていう苦しまぎれのコメントを発表していたことを指しており、それを受ける吹き出し内の台詞、"You bet I did. And I enjoyed it (もちろん、私はやった、そしてそれを楽しんだ)."。"それ"って、もちろん、マリファナ。昨年、市長選前の New York Magazine 誌のインタビューで聞かれた「マリファナを吸ったことがありますか?」という質問に対してブルームバーグ氏が答えた言葉からきている。
ボディコピーでは、ブルームバーグ市長が正直にマリファナを吸ったことがあることを認めたことを讃え、クリントン元大統領、パターキ現ニューヨーク州知事、トーマス最高裁判所判事らも吸ったことがあると認めた事実があるし、アメリカ人の3人に1人がマリファナを吸うことからも、マリファナを吸うということは、normal なことであるということ。私たちは責任をもってお酒を飲んでいる人を逮捕しないし、アルコールがマリファナよりも危険なのは周知の事実なのに、毎週約1000人がニューヨーク市でマリファナを喫ったことで逮捕されるというのは理不尽ではないのか。最近の統計によると、ほとんどのニューヨーカーはこのような逮捕には反対しているのだから、これは税金の無駄使いではないのか。成人の私的なマリファナ使用は、プライベートな問題ではないのか。公の場でのマリファナ使用への処罰は、アルコールの現状同様、逮捕ではなく、裁判所への出頭命令であるべきではないのか--といったことを、立候補者への支持メッセージ風に述べている。
このようなキャンペーンのモデルになってしまったブルームバーグ市長、これを喜んで受け入れているわけではないが、かえって問題を大きくするからという理由で、裁判に訴えることはしないと表明している。
ストレートなメッセージをセンセーショナルに投げつけたこの広告、全米、ヨーロッパのテレビのニュースとして報道もされたので、効果も最大規模となったことだろう。ここまで強烈な手法が、日本で受け入れられるかはおくとして、唸らされた。アメリカの意見広告って、すごい。